ドイツ
岐路に立つドイツ製造業 - 空洞化か膨張か【2004年1月7日】
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ジーメンスシュタット
ジーメンスシュタット管理棟(ベルリン)

 ドイツを代表する企業の一つジーメンス社がその研究開発の拠点を東欧へ移転するという話が出ている。この話は、昨年末のファイナンシャル・タイムズのジーメンス社取締役フェルトマイアー氏とのインタビューで明らかにされた。

人件費が高いドイツから、造船など労働集約的な製造業を、人件費の低廉な東欧地域に移転するのはよく見られること。しかし少数精鋭で行う研究開発は、ドイツ国内の高等教育レベルと、東欧地域に比較して充実した研究ネットワークやインフラが必要とされることから、漠然と国外移転はあり得ないと考えられて来た。

実際には研究開発部門はマンパワーがものをいい、しかも製造部門や販売部門と比較して特定の場所に縛られる必要性は少ない。今年の春には中・東欧のカ国が新たにEUに加盟し、数年後にはこの地域における完全な移動の自由が現実のものとなる。またこれまで旧東ドイツ地域に投入されてきたEUの補助金が新規加盟国に移ることになることを考えると、将来、中・東欧諸国の賃金が上昇してもドイツに居るよりはましと考える企業が増えてくるのは不思議ではない。

ジーメンス社では研究開発部門5万人のうち、3万人がドイツ国内の事業所で研究開発を行ってきた。東欧諸国ではこれまで十分の一以下の2700人がこの分野で働いていたが、同社では今後数年以内に研究開発部門の約三分の一程度を低賃金諸国に移転することを考えているという。

移転を考えている理由についてジーメンス社では賃金格差の他に、優秀な人材が大量に存在することをあげている。実際にドイツの職業教育や高等教育のシステムは産業が必要とする人材を十分に供給しているとは言いがたいところがあり、しかも無駄が多い。就職の手段としての経営学の人気が高いのに対して、理工学系の大学卒業生は、常に不足している。製造業が国の基幹産業であるこの国で、製品を作る人間がいないのにマネージャーばかりが増えたところで将来は明るくない。ただ、求めさえすれば、ドイツ人のマネージャーの下で製品を作ってくれる人々がすぐ近くに居るというのはドイツにとって幸いというしかない。この時代と地理的環境をうまく活用すればドイツという国はヨーロッパの中心部のマネージメント大国に生まれ変わる可能性がある。

そういう意味で、研究開発や生産の現場の東への移動はドイツにとっての後退を意味するものではない。たしかに研究開発拠点の東への移動は、失業や税収の減少に頭を悩ませている連邦政府にとっては大きな痛手であろう。しかし企業にとっては、これまで東に位置する低賃金諸国から流入していた優秀な人材(実際にドイツの大学や研究機関には東欧諸国出身の研究者が大変多い)を積極的に外に求めていこうという姿勢の現れであると考えられる。国家にとっての損失は必ずしもドイツという地域の没落を意味するものではない。

中世のハンザ同盟も、ドイツの皇帝権力が空洞化し、商人のグループ、続いて各都市が半ば自立的に発展の道を切り開いていったことで発展し、ヨーロッパの中央部におけるドイツの文化的・経済的な影響力を高めることになった。ドイツ企業が、国境で規定されるドイツという地域に拘束されなければ、ドイツのルールを受け入れ、ドイツ語を十分に使いこなす、しかも勤勉な労働力がすでに用意されているうえ、ドイツ企業の進出で所得水準が上がれば彼らは数年で活発な消費者になる。



ドイツに今、求められている課題は職業教育、高等教育をこのような現実に見合ったものに変えていくことだろう。具体的に挙げるならば、中・東欧諸国言語を使いこなす人材や各地の法律に精通した人材を供給することが重要になるだろう。共産ブロック崩壊以後、スラブ諸語が半ば蔑視されているような現状のままでは、ドイツの発展のキーを握る中・東欧との関係でも、ドイツの文化、経済、法を熟知し、ドイツ語を使いこなすうえに、国境を越えた就職にも抵抗がない東の国の人々に管理業務までゆだねることになりかねない(実際にジーメンス社では研究開発部門意だけでなく、経理や管理業務をチェコ国内に集約化することを計画している)。

ここ数年間はドイツ経済にとっても正念場になるだろう。【佐藤】



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