はじめに

 この魚名インデックスができたきっかけは2つあります。第1に食材としての魚への興味、第2に水中世界への現実逃避です。
 ドイツに住んでいると、日本の巷にあふれている多種多彩な食材、特に魚介類が無性に恋しくなることがあります。目の前の対象を食として眺める場合、そこに食「文化」というものが介在するものの、基底にあるのはやはり生物的本能としての食欲です。その食欲が満たされない場合、まず絵や写真を眺めて味覚を想像するという代償行為が起こり、次に体が慣れてくると、同じ魚介を純粋に美的に眺めることが可能になってくるようです(小生の場合、まだそこまで達観できていませんが)。
 こうしたなかで、「日本のあの魚はドイツ語ではなんというのか」といった興味もおのずと湧き、何冊かの魚類図鑑を買い揃えるようになりました。同時に気がついたのは、地中海諸国に比して食材としての魚介類への関心が極めて低いドイツが、ダイヴァー向けの海中生物写真集や観賞用魚類のガイドブックでは、世界でもトップレヴェルのものを出版しているという事実です(もっともこれらの書籍は、ドイツ語圏の外ではもっぱら英語版で出回っていますが)。
 そんなわけで、食い意地6分に大衆科学的ないし美的興味4分ではありますが、暇を盗んでは世界の色とりどりの魚たちを眺めて現実逃避しているうちに、あまり他人の役に立ちそうもないこの魚名インデックス(Ver.1は約1,300種)ができあがったという次第です。
 ただこのほとんど無意味な収集作業の中にもちょっとした発見がなかったわけではなく、また和独辞典はもとより、権威ある独和辞典の誤りがいくつか見つかったことも確かです(この点については、また 別の機会に述べたいと思います)。

 以下、本インデックス利用に当たっての注意点を簡単に記します。

1.魚類学についてはズブの素人が作成した、ごく不完全なインデックスです。スペルミスもまだかなりあります。各魚種の分類は典拠によって大幅な相違があるため、属名の表示などは必ずしも一貫していません。なお、このインデックスの利用により生じた不利益について、作成者は一切責任を負いません。また質問にも一切お答えできません。

2.ドイツ語の種名に対応する和名がなく、単に「(○○属)」と記されている魚種が非常に多くなっています。これは日独両国の海域・水域に共通して生息する魚がごく限られている以上、しかたのないことです。世界で現在知られている魚種(FishBaseによれば約28,500種)のうち、ドイツ産魚類はわずか250種ほどです。つまり本インデックスのドイツ語見出し語の大半は、ドイツから見て「外国産」ということになります。これにに対し、日本産魚類は約3,800種が知られていますが、その中でなんらかのドイツ語名がつけられているのは、「国際的」に分布ないし活動する魚(とりわけ食用魚)や、観賞・研究といった方面でドイツ人の関心の対象となる、ごく一部の魚に過ぎません。「ドイツ語名を調べたかったのに、当該魚種の和名がリスト上にない」という不満をもたれた方にも、同じ理由からご理解をお願いしたいと思います。いずれにせよ、そのものずばり対応する種名がない場合でも、属名か、少なくとも科名が判明すれば、「○○属(科)の魚」とか「○○の仲間」といった近似訳が可能になります。

3.ひとつの魚種に複数のドイツ語名・英語名がついていることがあり、またその逆に、複数の魚種に同一のドイツ語名・英語名がついていることがあります。これは、ラテン語の学名や日本語の標準和名と異なり、ドイツ語名や英語名は特に統一されていないことによるものです。

4.ローマ帝国以降のラテン語同様、グローバリゼーションにともなう英語の覇権は魚の名称においても顕著で、一部の目や科においては独-日/日-独という対照がいささか不毛と思えなくもありません。昔からドイツ人に馴染みの深い魚は別として、ダイヴァー向けの図鑑に記載されたドイツ語名には、英語名の直訳とおぼしきものが目立ちます。もっと極端なのは日本語の方で、外国産の魚のうち、かなりの部分が英語のカタカナ表記で一般に通用しています。

5.このVer.1では、ドイツ語見出し語の大部分をダイヴァー向けの図鑑から取ったこともあり、魚種にかなりの偏りがあります。例えば遠洋魚・深海魚ならびに淡水魚に関しては、作成開始時点で手元の資料が少なかったため、ごく少数しか採録していません。この点については、2.で述べた日本産魚種の少なさも含め、今後増補改訂していく予定です。

6.商業目的での転載を固くお断りします。なお本インデックス作成にあたって、以下の文献ならびにWebサイトを参照しました。

参考文献:

Debelius, Helmut: Fischführer. Mittelmeer und Atlantik. �ber 800 Farbfotos aus dem natürlichen Lebensraum der Meeresfische. Jahr Verlag, Hamburg 1998, 22001.

Hennemann, Ralf M.: Haie & Rochen weltweit. Pazifischer Ozean, Indischer Ozean, Rotes Meer, Atlantischer Ozean, Karibik. �ber 600 Farbfotos aus dem natülichen Lebensraum der Knorpelfische. Jahr Verlag, Hamburg 2001.

Louisy, Patrick: Meeresfische. Westeuropa und Mittelmeer. Aus dem Französischen von Claudia Ade. Ulmer, Stuttgart 2002.

Muus, Bent J./Nielsen, Jørgen G.: Die Meeresfische Europas in Nordsee, Ostsee und Atlantik. Mit Zeichnungen von Preben Dahlstr&oslah;m und Bente Olesen Nyströ. Kosmos, Stuttgart 1999.

Weissert, Frank: Lexikon der Süßwasserfische. Erfolgreich angeln. Sicher bistimmen. Müller Rüschlikon, Cham 2001.

原色魚類大圖鑑 監修:阿部宗明 (北隆館、1987年)

山渓カラー名鑑 日本の海水魚 編・監修:岡村収・尼岡邦夫 写真:大方洋二・岡田孝夫・小林安雅・田口哲・矢野維幾・吉野雄輔ほか (山と渓谷社、2000年[2版])

山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 編・監修 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海 写真 桜井淳史・大塚高雄・田口哲・矢野維幾ほか (山と渓谷社、2001年[3版/改訂版])

参照したWebサイト:

FishBase: http://www.fishbase.org/search.cfm

Ichthy まだ見ぬ魚のページ: http://f15.aaacafe.ne.jp/~ichthy/index.html

(2004年7月23日)