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紙ハンカチ (Papiertaschentuch)【2004年7月25日】
紙ハンカチ
紙ハンカチのパック
 日本の大学での話。昼下がりのゼミナールの時間、老教授はハンカチを取り出し大きく広げるとその角を使って鼻をかみ、ことが済むと器用に折り畳んで再びポケットにしまい込んだ。教授とは一世代以上年齢に隔たりのある都会育ちの学生たちはあっけにとられる。教授も学生たちの視線に気がついたのか、自分の行動を釈明する。ハンカチというのはヨーロッパではこうやって使うものだと。
 確かに教授が留学した戦後間もない頃のフランスでは、皆ハンカチをそのように「本来の用途」で使っていたのだろう。庶民が手鼻を使っていた頃には布切れで鼻をかむというのは上品なマナー。老教授のマナーはフランス仕込みだったし、使い捨ての習慣に乏しかった戦前生まれの教授にはなじみ深いマナーだったのだ。若い学生には、世代のギャップと軽いカルチャーショックを感じさせるできごとだったかもしれないが。
 しかし教授が留学した頃から時は移って、世の中は使い捨て万能の時代に。日本でもヨーロッパでも変わるところはない。ドイツでは今でもハンカチで鼻をかむのを見ないわけではないが、一般的には日本と同様に紙を使う。ティッシュペーパーのことをドイツ語では、Papiertaschentuchという。Papierは紙、Tascheはポケット、Tuchは布(Taschentuchがハンカチ)。だから直訳すれば「紙のハンカチ」というわけだ。
 この紙ハンカチ、さまざまなものが市販されているが、一般的なものは10セットが一つのビニールパックに入っている。その一セットを出してみると、縁に模様が入れられていたり、紙も厚く、日本の街角で配られているようなものと比べると格段に立派で丈夫そうだ。これを使い捨てとは随分と勿体ないことをするなと日本人なら思うかもしれない。
 心配ご無用。現代のドイツ人も一回で使い捨てたりしない。使っては折り畳み、ポケットにしまい込む。乾いた頃にまた使うのだ。布が紙に変わっても、使い方は老教授のハンカチと変わらないのだ。
 ドイツで若い女の子が鼻をかんだ紙を畳んでポケットに突っ込む光景は、これまたカルチャーショックだった。【長嶋】

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フリーランスのリサーチャー、翻訳者、通訳者
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