| ヨーロッパという地域 | 
                
                  | 高緯度の地方ほど大きく投影されるメルカトル図法の地図ばかり見ていると、特定の地域との距離的な関係や、面積の感覚が狂ってくるので筆者は小さな地球儀を 買ってきて机の上に置き、時々眺めることにしている。地球儀をカスピ海のあたりが上になるように回しアジア側からヨーロッパの方向を見ると、ユーラシア大陸から突き出している半島が二つ存在しているのに気が付く。左に伸びるのが、アラビア半島(地図を見ているだけではあの半島がそんなに大きいとは誰も気付 かないだろう)、右に伸びるのがヨーロッパ「半島」である。そしてこの二つの半島がアジアとアフリカの境界線をなしている。「半島」の先端にスペイン、ポルトガル、根元の部分にはウクライナ、ベラルーシとバルト諸国が存在している。 私がドイツに来て一番戸惑ったのは距離感の問題であった。何しろ島国から大陸にきたのであるから、国境という観念は欠如しているし、それぞれの国や都市の距 離感というものがはっきりとしない。後になって考えるようになったのだが、ある国に育った人間の世界を見る目というものは多かれ少なかれその人間が育った 土地の地理感覚に支配されるのではないかと思う。ドイツの「おおきさ」について私が知っていたのは、ドイツの面積は日本のそれよりも少しだけ小さく、フラ ンスは日本より何割か大きいということであった。実際にドイツに着いて、列車の路線図を見るとドイツの端から端まで行ってもずいぶん距離が少ないことに気 が付く。
 
 
                      
                        
                          
                            | 国境の観念と記したが、陸上の国境というものを昔の東西ドイツ国境や現在の朝鮮半島の国境の話で知らなかった私はドイツに着いた当初(1993年)、国境というものについて誤った想像を抱いていた。ドイツの南端に面し、同時にスイス、オーストリアにも面したボーデン湖(Bodensee)のほとりの島にあるリンダウ(Lindau)市に行ったとき、湖畔を散歩していくと、オーストリアとの国境に突き当たった。国境という看板を見た私は、特に何があるわけでもないのにそこでドイツ川に向かって歩きはじめた。こんな「国境観念」はもしかすると私だけのものかも知れないが、そこでなんとなく戻らなくてはならないような気 分になってしまったのは国境というものを日常的に体験していないということから来るのかもしれない。 |  | 
                
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                            | そういえ ば、ドイツでは(またドイツだけに限らず、ヨーロッパの他の国でも)、海外(bersee)という言葉と外国(Ausland)という言葉は日本語とは違ってそれぞれ異なる範囲を表している。つまり、地続きの近隣諸国というものを持つ、大陸の国々の住人にとって、外国とは自分の国以外のことを指すのは日本語と同じであるが、海外という場合にはヨーロッパ以外の地域をさしてい る。すると、地続きの中国はどうなるのであろうかという疑問がわき、ドイツ人の家内に質問して見ると、中国は地続きなので、遠いアジアとはいえやはり外国にしかならないのだそうだ。これ以外にもドイツ人の感覚では特に移民を多く送り出した先である南北アメリカ大陸、また、第一次世界大戦に敗れるまでドイツ 植民地であった中部太平洋の島々も海外というイメージに結び付けられている。 |  | 
                
                  | 試しに、日本国内(及び近隣諸国)のいくつかの地点間の距離と、欧州各国の都市や欧州内の地点間の直線距離の比較を行ってみる。 | 
                
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                            | 日本列島の長さ(北海道東北端から西表島) | ほぼ3000km |  
                            | 東京‐那覇 | 1500km |  
                            | 東京‐札幌 | 800km |  
                            | 東京‐ソウル | 1200km |  
                            | 東京‐北京 | 2000km |  
                            | 東京‐香港 | 2800km |  
                            | 欧州ドイツ東西端の距離(オーデル河畔のフランクフルト(ポーランド国境)からザー ルブリュッケンまで) | 650km |  
                            | ドイツ南北端の距離(フレンスブルクからフリードリヒスハーフェンまで) | 800km |  
                            | リスボン(Lissabon)‐モスクワ(Moskau) | 3500km |  
                            | ベルリン‐モスクワ | 1500km |  
                            | *この表 の距離は、地図帳から直線距離を大まかに算出したものである。 |  | 
                
                  | この表を見ていただくと分かるが、日本とほぼ同じ面積を持つドイツの距離的な広がりは意外に小さいことに気がつく。 続けてベルリン市から欧州内のいくつかの都市までの距離を表に示す。
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                            | ベルリンから | 距離 |  |  
                            | プラハ(Prag) | 300km | 東京から四日市まで |  
                            | コペンハーゲン(Kopenhagen) | 350km |  |  
                            | ウィーン(Wien) | 500km | 東京から赤穂まで |  
                            | ワルシャワ(Warschau) | 550km |  |  
                            | ブダベスト(Budapest) | 700km | 東京から広島まで |  
                            | ストックホルム(Stockholm) | 800km |  |  
                            | ロンドン(London)< | 900km | 東京から福岡まで |  
                           
                            | ヘルシンキ(Helsinki) | 1100km |  |  
                            | ローマ(Rom) | 1150km |  |  
                            | キエフ(Kiew) | 1200km | 仙台から鹿児島まで |  
                            | ブカレスト(Bukarest) | 1300km |  |  
                            | アテネ(Athen) | 1800km |  |  
                            | マドリード(Madrid) | 1850km |  |  
                            | *距離は50km単位の概数 |  | 
                
                  | 距離を直線距離のキロ数だけで判断するのは、途中に存在する国境や自然の障害を無視する事になるから、ここで道路交通の手軽な例としてベルリン長距離バス (Berlin Linienbus)社の時刻表から、ベルリンと主要都市の間の走行時間をたどってみる。 | 
                
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                            | ベルリンからの所用時間 |  |  
                            | ハンブルク(Hamburg) | 3から4時間 |  
                            | ブレーマーハーフェン(Bremerhaven) | 8時間 |  
                            | プラハ(Prag) | 6から7時間 |  
                            | ブダベスト(Budapest) | 14から15時間 |  
                            | キエフ(Kiew) | 24時間 |  
                            | ブカレスト(Bukarest) | 34時間 |  
                            | サンクト・ペテルブルク(St. Petersburg) | 14時間 |  | 
                
                  | これらの表を見ると感じるのはドイツという国は欧州の東西南北いずれの端からも同じ距離にありながら、今後東方に拡大する中欧には直接アクセスできるという利点を持っていることがわかる。 |